Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―
静かに息を吐き、不思議そうに私を見つめてくる涙から離れる。
「かすみ草、生けてくるね」
「あ、お願い」
棚の上に置いてある、古いかすみ草と買ったばかりのかすみ草を持って、私は部屋を出た。
……胸が痛い。
花瓶の水を捨てて、何回か濯いで新しいかすみ草を生ける。
古いかすみ草の方も、まだ枯れていない部分は残して一緒に花瓶の中へと入れる。
……涙が少しずつ思い出してくれてる。
自分の親戚の家の位置を正確に思い出してくれたのは、大きな進歩。
でも、涙が思い出すのは家族の事。
……私の事は思い出してくれない。
ひらめく様に思い出した……そう涙は言っていたけれど、その場面に私は居なかったの?
場所は、私の家だったんじゃないの?
いつも、冬になったら蜜柑、持ってきてくれてたじゃない。
――――『あー!また蜜柑食べてる!!』
テレビの前に置いてある炬燵に入って、テレビを見ている涙の前には沢山の蜜柑の皮。
『波音も食う?』
涙は、たった今むき終えた蜜柑を半分に割って私に差し出す。
『って、この蜜柑私のだし!』
『俺が持って来たんだろ?』
『貰ったんだから、私の!』
『んなケチんなって。まだ俺の家にいっぱいあるし、持ってきてやるから』
涙から蜜柑を受け取り、口へと運ぶ。