Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―
『え?』
目を見開いて、俺を見つめる。
また形にならない涙が、頬を伝っていった。
『涙っ!あんた波音ちゃんまで……』
母さんの悲痛な呟きと啜り泣く声が聞こえる。
ごめん。
だけど、分からないから。
『涙、ちょっとごめんな』
答えない彼女に、兄貴が横から入ってくると、放心状態の彼女を部屋から連れて行ってしまった。
背中が消えるまで見つめていた俺は、どうすれば良いのか分からなくなる。
『波音ちゃんの事まで……』
『一時的だろう。きっとすぐに思い出すはずだ』
母さん達のそんな話も反応する気が起きなくて、ただ分からないばかりの自分が悔しくなった。
今頃兄貴が説明しているだろう。
こんな事になって、すぐに駆け付けてくれたんだからきっと何か関係があったはず。
その関係も、覚えてないけど……。
こっそり誰かから聞いて、覚えているふりをすれば良かった?
泣き顔が頭にちらついた。