Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―



『え?』


目を見開いて、俺を見つめる。

また形にならない涙が、頬を伝っていった。


『涙っ!あんた波音ちゃんまで……』


母さんの悲痛な呟きと啜り泣く声が聞こえる。


ごめん。

だけど、分からないから。



『涙、ちょっとごめんな』



答えない彼女に、兄貴が横から入ってくると、放心状態の彼女を部屋から連れて行ってしまった。



背中が消えるまで見つめていた俺は、どうすれば良いのか分からなくなる。


『波音ちゃんの事まで……』

『一時的だろう。きっとすぐに思い出すはずだ』


母さん達のそんな話も反応する気が起きなくて、ただ分からないばかりの自分が悔しくなった。


今頃兄貴が説明しているだろう。

こんな事になって、すぐに駆け付けてくれたんだからきっと何か関係があったはず。


その関係も、覚えてないけど……。


こっそり誰かから聞いて、覚えているふりをすれば良かった?


泣き顔が頭にちらついた。



< 84 / 162 >

この作品をシェア

pagetop