Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




長すぎず、落ち着いていてシンプルな装飾が施されている爪で、今日に薄皮まで剥いているのを見て感心する。


薄皮を綺麗に剥き終えて、口へ運ぼうとするレイコさんの隣で、早くも俺は3つめの蜜柑に手を伸ばしていた。



『……食べ過ぎじゃない?』

『そう、ですかね?』

『もう少し時間を置いて食べないと……お腹壊すわよ?』


そう言われても、一度食べ始めたら止められなくて。


また口に入れる。



『蜜柑好きなのね』

呆れたように、でも笑いながら食べ進めるレイコさん。


―――……!


いきなり、脳裏に変な映像が流れて、思わず手を止めた。



……宅急便?


ダンボールを開ける手が見える。

誰が開けてるのか分からないけれど、多分俺。


ガムテープをめちゃくちゃに外して。


ダンボールには和歌山、と書かれていて。


開けると、中いっぱいに蜜柑が詰め込まれている。



それを、次々に剥いている、そんな映像。



……忘れてる、過去?



昔から、蜜柑が好き……?






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