Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―



待って、待って、やっと。


どんな顔で喜んでくれるだろうか、などと思考していれば、待ち望んだドアをノックする音。



中の俺に気遣う優しい叩き方。



ノック一つにも、性格が表れる事に最近気付いた。



「こんにちは―――」

「俺、思い出した!」



ドアが開いて、本城さんの顔が見えた瞬間、何時間も伝えたかったことを伝える。



そんなに大きな声を出した積もりはなかったのに。



思っていた以上の大きさで、室内に響きながら本城さんに届いた。



本城さんは、いきなりの俺の第一声にビクッと体を震わせて、目を大きく開く。




「……何を?」


コツコツと、ヒールの音を鳴らしながら、

それも余り音が出ないようなゆったりとした歩き方で首を傾げながら近付いてくる。




過去の事を僅かだけど思い出す事が出来て嬉しい俺と、



いきなり来て意味が理解出来ていない本城さん。



はしゃぎすぎたか、と冷静に聞かれて恥ずかしくなる。



「はい」


本城さんの目から視線を下にやれば、目に入る……かすみ草。




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