Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




蜜柑を見て思わずにんまり緩んでいれば、いきなり視界に現れた本城さん。



顔を覗き込まれて、俺の目に映った本城さんは必死で。


質問を理解しつつ、本城さんの目に映る俺を見ながらこの距離を近い、と思った。



でも、嫌じゃない。






……だけど。


ごめん。



聞かれた質問に答えようと思ったけど、どこで。



それは、分からない。



「分からない」


「……そっか」



ごめん。



俺の家、かと思ったけど、それは普通過ぎるんじゃないか。



ふと過った疑問。



本城さんが「どこで」と聞く位だから、昔の俺はどこかで沢山蜜柑を食べていたのかもしれない。



はっきり思い出せていない事を、推測を交えて言うことはしたくなかった。



でも、少なからず本城さんは俺の返答に期待していたらしい。



分からない、と答えた後、またあの悲しそうな表情を見て、苦しくなった。



「どうしたんですか?いきなり」

「ううん、何でもない。取り乱しちゃってゴメンね」





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