Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




髪を手で整えながら、俺から距離を取った本城さん。



「かすみ草、生けてくるね」


「あ、お願い」



飾ってあった古いかすみ草と買ったばかりのかすみ草を持って、逃げるように出ていってしまった。


出る間際、静かに吐きだしたのは落胆のため息?


結局俺は、肝心なことは思い出せていない。




本城さんが求めていた記憶も、思い出せていないんだ。



それなのにバカみたいに喜んで。



喜んでくれると思っていた本城さんにまたさせたくなかった表情をさせてしまって、自己嫌悪。



思い出せよ、自分。





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しばらくして綺麗に生けられて帰ってきたかすみ草と本城さん。



棚に置いて、もう一度綺麗に動かされるかすみ草の中には……明らかに生き生きしていないものが混じっていて。



それに微笑む本城さんに、自然と俺も顔が緩んだ。


まだ咲いているから。

本城さんの優しさが見える。



頑張って最後の最後まで咲いている一部の花を残す、と言う。





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