約束 〜promise〜
離ればなれ
桧山香苗 24歳
「今日もまた残業かあ〜」
定時を迎えてもなお、手元には大量の書類たち。
あたし、桧山香苗 ヒヤマカナエ 24歳。
大学を出てこの小さな会社に入社して早2年。
だいぶ仕事にもなれてきた。
「はい、そこ溜め息つかないー」
「すいませ〜ん」
うちの会社の準出世頭の32歳、ちょっと、いやかなりドSな課長若井さんからの一言。
「神崎さんからも何か言ってやってよ」
課長に後ろから椅子を軽く蹴られた。
「若井くんもたまには女の子を先に帰してもいいでしょう」
「神崎さん、こいつ仕事!」
子どものように反論する若井さんと、入社以来昇進するチャンスはいくらでもあったのに、今までずっとこの課で働き続けている神崎さん。
いつも謙虚でおおらかな神崎さんは、あたしが入社したときから何かと心強い存在で
愚痴を聞いてもらったり、お孫さんの話をしたり、結構癒されてる。
「いいんです、神崎さん」
「ほら、本人が言ってるんだもん!」
若井さんに詰め寄られてる神崎さんに申し訳なくて、あたしはそう言った。
案の定若井さんがふふん、と笑ってどかっと自分のデスクに座った。
「ごめんなー、」
頭をぽりぽりしてる神崎さん。
「いいんです、いいんです。仕事が遅いのはあたしのせいなんで」
へへ、と笑ってまたパソコンに向かう。