アリス図書館‡QUEEN



静はふっと笑うと紅葉のほうを向いた。






「ねぇ紅葉ちゃん。バイオリン、弾いてくれない?」



「え・・・」



「約束、したでしょ?」






ニコニコと笑いながら静は言った。

紅葉は戸惑ったが、直ぐにハイ、と返事をしてバイオリンを取り出した。




ー♪ー♪♪ー♪

ー♪ー♪ー♪




「・・・・・・」






穏やかな笑みを浮かべながら紅葉は綺麗な音を奏でた。

静はそれを瞳を閉じて小さく笑いながら聞いていた。




ー♪♪ー♪ー♪

ー♪ー♪♪♪ーー




曲が終わりふぅっと紅葉が小さく息をはくと静が瞳を開けた。






「裕紀とは違う紅葉ちゃんの音だけど、裕紀の音と同じで落ち着く音だった・・・」






そう言った静の瞳にはうっすらと涙が溜まっている。






「上手になったね」



「ありがとうございます」






紅葉はニコッと笑ってお辞儀した。






「・・・そろそろ私行くね」






クリーム色のキャリーケースを手に取り歩き出した静。






「静さん、何処に行くんですか!?」






紅葉が慌てたように自分の横を通り過ぎた静に聞いた。






「んー、パリにでも旅行にいこうかなーって」



「そんな・・・せっかく帰って来たのに」






シュン、と悲しそうに頭を下げた紅葉を見て、静は頭を撫でた。






「・・・紅葉ちゃん、私が憎くないの?結婚相手を消したんだよ?」



「私が静さんだったら、同じことをしています。だから私に静さんを攻める事はできません」






紅葉が真っすぐと静を見ながらいうと静は少し驚いた顔をした。

でも直ぐに笑顔を向けてまたポンッと頭を一撫でして扉を開けた。






「またね、紅葉ちゃん」



「・・・はい」






そう言って静は扉を閉めた。




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