初恋をもう一度。
「私ね、実は記憶がぽっかりと抜けてるの。具体的な原因は分からないんだけど、通院してて」
唯はあくまでも笑顔だった。
「…記憶喪失??」
「うん。あっ、でも佐野くんの事は覚えてるよ、ちゃんと!!!中学の時、よく喋ってたしね」
「ああ、そうだな…」
「中学時代の人とか、出来事はだいたい覚えてると…思うんだけど…」
「…忘れてる期間ってのがあるのか??」
「高1…ううん、中3の途中くらいから、その年の冬くらいまでの事はほとんどね」
それは恭平との思い出を選んで取り去ったようなものだった。
「そ…っか…。大変だったんだな」
「ううんっ。あ、なんかごめんね~、暗い話しちゃって!!!それより佐野くんの用事…話って??」
「いや、なんつか…えっと、前はお前、…俺のこと名前で呼んでたんだよ」
「下の名前??」
恭平は頷いた。
「えっ、そうだっけ!!?恭平くん…って??」
「…恭とか。昨日、佐野って苗字で言ってたろ??さっきも。変だなって思ったんだ」
「そっかぁ、ごめんね。じゃあ恭くんだねっ。なんか急に呼び捨てって恥ずかしいから」
気付くと道にさす陽が少し強まってきていた。急に時間の経過を感じた。