野良猫の憂鬱





小銭を拾い終わったあたしはまた何か言われないうちに急いで教室を出ようとドアへ向かう。



「………ぁ」



途中、わざとらしく伸ばされた足につまずいた。



「おい、ダサ子~、オレの足につまずいてんじゃねぇよ」


「やっぱ鈍くさいな、おまえ~!」




藤堂くんたちを中心とするグループもあたしが目障りでしかたないらしい。



目一杯伸ばされた足につまずいて転んだあたしをギャハハと楽しげに見下ろして嫌な言葉を浴びせる。




「………おい、いつまで寝てんだよっ!」


「………ごめんなさっ」



「やめなよ、そーゆーの」




また上から声が降ってきた。



「御藤(ミトウ)くん………」



同じクラスの御藤 秦也(シンヤ)くん。


頭がよくて、運動もできて、カッコいいから人気がある。



「んだよ、シン~。せっかくのストレス発散なのにー」


「やめなよ、そーゆーガキっぽいの。くだらない」


「大人だねぇ」


「うるさいな。ほら、天海さん立って。おつかい行くんでしょ」



ニコ、と爽やかに微笑んであたしに手を差し伸べる。



後ろから辻井さんたちの視線が刺さる。


『なにあの子』

『御藤くんに庇われたからって調子乗ってんじゃないわよ』


口に出してはいないもののそう思っているのは明白で、その手を掴むわけにいかずあたしは視線を下に落としたまま自分で立ち上がった。



「お節介だったかな」


「………ごめんなさい」


「いや、別にいいんだけどさ」



視線は下のまま小さく謝ってあたしは駆け足で教室を後にした。





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