野良猫の憂鬱




パシリに使われて缶ジュースを買った頃にはもうとっくに授業開始のチャイムが鳴っていた。


今から教室に戻ったって、きっと笑い者になるだけだ。



「………サボろ」




缶ジュースだって本当に欲しくて頼まれたわけじゃないのは分かっている。


だってお昼の時、辻井さんたちは自分でジュースを買ってきていたから。


きっと律儀に買って帰ったあたしをバカにして笑いたいだけだ。



ブラブラと校門を出た。


あたたかい日差し。


対照的に暗い心。



「…………」


もうため息も出ない。



こんなもんなんだ。


家族なんていない。


友達もいない。


そんな孤独のあたしに残されたものはなにもない。




気付けば見覚えのある場所に来ていた。



独り暮らしのおじいさんが住む小さな家。


ここに咲く草花が綺麗でぼんやりと眺めていたあたしに話しかけてくれた優しい穏やかなおじいさん。


学校帰りによく寄っているこの場所に無意識に足が向かっていたらしい。




こんな時間に来ちゃったらきっとおじいちゃんビックリするな。



ふ、と笑みをこぼして生い茂る木々を見上げた。



「………え?」



ガサリと葉のこすれる音を立てながら。



「いたた………」



木の上から人が降ってきた。





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