紫陽花なアイツ
中学校に入学した。
あたしは、まだ形の悪いリボンを結び直すのに必死になりながら、桜の樹の下にいた。
「…夜志乃?」
聞き慣れた声にリボンから目を離すと、幼なじみの葉介がいた。
「あ、おはよう!」
学ランを着る葉介は、小学生の時より大人びて見えた。
「…俺より早く出たんじゃなかったっけ。」
「途中でリボンがほどけたから、結んでた。」
「遅れる。」
呆れたように溜め息を吐いた葉介と並んで歩く。
「葉介のお母さんは来るの?」
「まぁ。」
あたしのお母さんは来ないから、少しだけ羨ましかった。