苺のアップリケ
「あら。おばさん怖くて言えないわぁ。最近、ひよちゃん機嫌悪いんですもの。」

おばさんはのんびりとひよの部屋を見上げた。

「こよちゃん言ってよ。」

可愛らしく口を押さえる姿はまだまだ子持ちの奥さんには見えない。

「…わかった。おばさん、上がるね。」

ため息をついて腰までの高さの鉄の門を押す。

少し重い門が軋む音を立てて開いた。

「はいはい。どうぞ。」

おばさんはドアを開けたまま、僕を迎え入れ、二階に顔を向け微笑んだ。

「いってらっしゃい。」

忙しい朝に不似合いな穏やかな声に目眩がしそうになる。

「おじゃまします。」

「頑張ってね。」

暢気な声援を受けて、僕は足音荒く階段を駆け上った。
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