苺のアップリケ
聞こえなかったフリをしたかったけど、できなかった。

涙を含んで厚くなったまつげが震える。

「無理すんな。」

どこまでも自己中な僕は、ひよりを労る言葉に自分の欲望をのせた。

ぎゅっと強く抱き締めたのは、離したくなかったから。

「っ。」

息をのんだ気配を無視してひよりから薫る甘い香りを吸い込んだ。

…ちょっと調子に乗りすぎた?

小さな手に胸を押された。

離れた場所から逃げていくひよりの温度がもどかしい。
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