レンズ越しの君へ
廉に渡された携帯を、ゆっくりと彼の手に返す。


「交渉成立」


何も言えないでいるあたしの頭を、廉がポンポンと撫でた。


「次の休み、いつ?」


「あ、明後日……」


「じゃあ、明後日の12時に駅前ホテルに来い」


ホテルと聞いて一瞬だけ体が強張ったけど、平静を装って小さく頷いた。


廉は意地悪そうに笑うと、あたしの手を引くようにして席を立った。


「今日は帰る」


「あっ、うん……」


あたしも席を立って、廉を送り出した。


「ありがとうございました」


笑顔で頭を下げながら言ったけど、内心は気が気じゃない。


とにかく出来るだけ早く、廉から逃れたかった。


「じゃあ、また明後日」


彼はあたしの気持ちを察したのか、それだけ言い残してすんなりと帰っていった。


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