レンズ越しの君へ
「まぁ……ちょっとな♪」


嵐はそう言って意味深に笑うと、廉に道案内を始めた。


あたしは不思議に思ったけど、何となくそれ以上は訊けなかった。


駅から実家までは車で5分くらいだけど、あたしにはほんの数秒程の時間にしか思えなかった。


実家に行く事を、全身で拒絶しているのがわかる。


不安が渦巻いて、気分が悪い。


「廉さん、ここ!」


後ろから道案内をしていた嵐の声に、心臓が跳ね上がった。


普通の住宅街にある、普通の一軒家。


駅前は少しだけ変わっていたけど、ここは3年前と何も変わっていない。


実家の前に車を停め、あたし達は車から降りた。


「どうぞ!」


嵐は門扉を開けてあたしと廉を中へと促し、玄関のドアも開けた。


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