姫取物語
第壱夜
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。

野山に交じりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。

名をば、讃岐の造となむいひける。

その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。

あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。

それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。

翁言ふやう、「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になりたまふべき人なめり。」

とて、手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ。

妻の嫗に預けて養わす。

うつくしきこと限りなし。

いと幼ければ、籠に入れて養ふ。


今となっては昔のことであるが、竹取の翁という人がいた。

(その翁は)山野に分け入って、いつも竹を取り、(その竹を)さまざまな物を作るのに使っていた。

その名を讃岐の造といった

(ところで、ある日のこと、翁がとっている)その竹の中に根元が光る竹が一本あった。

不思議に思って近付いてみると筒の中が光っている。

その中を見ると、三寸ぐらいの人がたいそうかわいらしい姿で座っていた。

翁が言うには「私が毎朝毎晩見る竹の中にいらっしゃったので分かった。私の子におなりになるはずの人であるようだ。」と言って、手に入れて、家へ持って帰った。
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