ひとひらの願い―幕末動乱―
彼の背中は、大きいように見えて小さい。
でも、何でも受け止めてくれそうな、広い背中に見える――…

そんな山崎さんの背が、ピタッと止まる。


「そや。また機会あったら話そうや」


振り返った瞬間に見えた表情。

―山崎さんは笑って、こっちを見ていた。


「…はいッ!」


そしてまた足を進める。

"哀"しみばかり見てきた彼が、笑顔を見せたということに、私は驚いていた。

…でも、その笑顔が一瞬のことだったはずなのに、脳裏に焼き付いているみたい。


消えない肖像。

忘れたくても、忘れられない。


というよりは、私自身が忘れたくないって思ってるからなのかな…?

―一体、私はどうしたんだろう……?


沖田さん以上に、心に引っかかる気がする――――…


「おい。こんなところにいたのか、高蔵」


後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには副長の姿があった。


あぁ、私は副長の小姓だったんだっけ……


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