ひとひらの願い―幕末動乱―
山崎さんの姿が、今歩いていった方向にない……


忍って行動が素早い。

こんな時に限って、消えるのが早いなんて、私もついてない。


でも、もう一度呼んでみる価値はあると思って。

涙を拭って、堪えて、また貴方の名を呼ぶ。


「山崎さ~ん! どこ行ったんですか~!?」


返事がなくても、呼ぶんだ。
山崎さんだけじゃなくて、みんなのことも。

そろそろ沖田さん達のことも呼びながら探さないと……


「山崎さ~ん! 返事して…」


スッ――…


「えっ……?」


ふいに後ろから気配がした。
振り向きたいけど、振り向けない。

振り向いたら、また泣いてしまいそうだから。


「何や。俺のことばっか呼んで」

「山崎さん…? あっ……」


グイッ――…


後ろの気配は山崎さんだった。

…そう思った途端、腕を引っ張られた。

後ろを向かされて、さらに抱きしめられていた。


「何で俺んことばっか呼ぶんや……あんたには他にも呼ぶ人がおるやろ」

「だって山崎さん……私――…」


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