ひとひらの願い―幕末動乱―
「ところで高蔵。何で池田屋だって分かったんだ?」


ふと、副長を見ていた時に、そう聞かれた。


ここで本当のことを言うべきなのかな。

いや、でも絶対信じてくれないだろうし。


また私は嘘をつくことにした。


「ただの勘です。気にしないでください」


にこっと微笑んで、私は前を向き、ひたすら走る。


もうすぐだ。

もうすぐで、沖田さんや永倉さん、藤堂さんに会えるんだ。


あ、そういえば……
ふいに、永倉さん達に言われた言葉を思い出す。


"ま、あんな野暮な野郎は放っておけ"

"沖田さんのことなんか気にしなくても大丈夫ですし"


繰り返す言葉が、あまりにも鮮明すぎる。

何だかよく分からない意味の言葉だったはずなのに、意外と気にしていたことに気づかされる。


でもどうして?
私は山崎さんのことが好きで……

そういえば、副長も……沖田さんも好きで。


誰が本命なのかと言われれば、それはもうあの人一人しかいないのだけれど。


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