ひとひらの願い―幕末動乱―
「オラァァア!!」


キーン……! グッ……


横からすかさず私を狙って、男が刀を振り上げ、殺そうとしてきた。

それを受け止め、鍔迫り合いとなる。


「小童のくせして、何故わしに刃を向けるか!」


ガッ


男は鍔を押して、構え直す。

私はよろけずに、彼と同様、構え直した。


「童だろうが何だろうが……貴方は私の敵ですから。刀を向けるだけですよ?」


冷静でいられる自分が、自分でも恐ろしいくらい。


でも今はそんなこと、どうでもいいんだ。

早く先へ進みたい。


「退いてくれませんか? 今、急いでるんです」

「わしを舐めてんのかぁぁあ!!」


また刀は振り上げられ、私の頭部を狙ってだんだんと下がってくる。


ここで死んだら、元も子もない。


そう思うと体が軽くなり、瞬時に男の背後に回り、刀の切っ先を素早く彼に向けた。


「後ろ傷は武士の恥―…忘れました?」


グッと、男の背中から腹部を刺す。そして引き抜いた。


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