ひとひらの願い―幕末動乱―
返り血が袴や羽織にかかり、また気持ち悪くなりそうになった。


「うぇっ……」


これを自分一人でやったんだと、改めて理解すると、やっぱり自分が怖くなる。

思わず呟いてしまうけれど、先を急いでいた私は廊下を足早に進む。


そこはもう、数人の長州の志士達の死体と血だけしかなかった。

新選組は、誰もいない。


沖田さんもこの中には、いない……


そう確認すると、少し安心できた。


でもまだ、油断はできない。

いつ後ろから襲ってくるとも分からないのだから…


「みんな無事、かな……」


―ゴホッ


そう小さく呟いた瞬間、微かだけど咳をした人がいた。

あまりにも小さすぎて、どの方向から、どの部屋から聞こえているのかも分からない。


私は立ち止まって、もう一度聞こえないか、耳をすます。

今立ち止まっている所から見える部屋は、二部屋。
斜め左と、正面の奥。

どちらも襖は開いているけど、蝋燭の灯もなく、暗くてよく見えない。


< 71 / 98 >

この作品をシェア

pagetop