ゴーストオブアイデンティティー
仰け反って目をつむっていると、血液が回っている音が聴こえる気がする。


そんなヤナセの首筋に、ヒヤリとする何かが押し付けられた。


「うわっ」

突然の事に驚き、無様にも椅子から転げ落ちた。


「あの…大丈夫ですか、ヤナセ?」

けらけらと可笑しそうに笑う彼女が、両手に水滴のついた缶ビールを持って、ヤナセの顔を覗きこんでいた。

「勘弁してくれ…」

「ふふ、すみません」

渡された缶ビールのプルトップを開け、中身を喉に流し込む。独特の苦味と喉越しが感覚を満たし、ふっと力が抜ける。


思わず出た欠伸を慌てて隠すも、彼女にまじまじと見られていて、苦笑いされた。

「ヤナセ、休養は大事ですよ?」

「分かっているよ、でも未だ遠い道程なんだ。道草は食えないよ」

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