ゴーストオブアイデンティティー
「……行きましょ」


バイクになんとかまたがり、エンジンを温め直す。冬という季節は、エンジンが復活するのに存外時間がかかる。


エンジンをふかし始めて少し経った時、携帯が震えた。

音量を上げて出ると、


「あ、桐?どうしたのよ全然電話に出ないでさ」

大学の新聞部の先輩だった。



「……先輩。すみません今ちょっと具合悪いんで…」

「珍しいね、あんたが具合悪いなんて。どうかしたの?今どこ?」


本当に吐き気が込み上げてきた。寒い…寒い…寒い……

「い…家……です…よ?」


呆れた声が電話の向こう側から聞こえた。

「なぁに嘘ついてんのよ!家、誰もいないでしょ?あんた言ってた昨日じゃない。明日は家族総出で徹夜ですって」


「は、はは……墓穴、掘りましたね」

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