ゴーストオブアイデンティティー
その言葉で、桐は身体中にのし掛かっていた重石が取り除かれた気がした。



ここは――――――――表だ。


表の世界。

桐が住む、日常の世界。


何故だか、涙が出るくらいに安心した。強張っていた体が、支えを無くす。再び、ベッドに倒れ込んだ。



悪夢。

この傷が無ければ、悪夢として全て片付けられるだろう。
目が覚めて多少の嫌な思いをするだけで、跡を濁さぬ鳥の様に拭い去られるのだろう。


だが、此れは違うのだ。

悪夢でもあり、悪夢でない。

悪夢なのだ。
リアル


桐は思う。

私がここで悪夢で片付けてしまったら、瞬間に真実は奈落の底へ堕ちる。

見てきた事を全て隠し、忘れ、棄てれば、桐の居た、世界に戻れる。

偽造世界という世界に。

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