ゴーストオブアイデンティティー
**
世界を逆にしながら、幸福は歩いていた。
押し寄せる人波の隙間を縫う様に歩く。接触する事は無い。立ち止まらず、ゆっくりながらも滑らかに。
そんな幸福に誰も目をくれる事はない。時間的余裕の無さや、焦りのせい、という訳ではない。
見えないのだ。
別にステルス加工を施した衣服を身に付けてはいない。何処にでもありそうな、ありきたりなコートを羽織っているのみ。
しかし、だから「見えない」
一番手のかからない、最も手軽な方法。
「溶け込む」のだ。周りの群衆に。誰も見向きもしない、あまりにも普通過ぎ、印象が無い格好こそ、人類史上最も手軽で初めてのステルス工作だ。
『劣化群衆』に紛れる事。
モブ シーン