ゴーストオブアイデンティティー

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世界を逆にしながら、幸福は歩いていた。

押し寄せる人波の隙間を縫う様に歩く。接触する事は無い。立ち止まらず、ゆっくりながらも滑らかに。

そんな幸福に誰も目をくれる事はない。時間的余裕の無さや、焦りのせい、という訳ではない。


見えないのだ。


別にステルス加工を施した衣服を身に付けてはいない。何処にでもありそうな、ありきたりなコートを羽織っているのみ。


しかし、だから「見えない」


一番手のかからない、最も手軽な方法。
「溶け込む」のだ。周りの群衆に。誰も見向きもしない、あまりにも普通過ぎ、印象が無い格好こそ、人類史上最も手軽で初めてのステルス工作だ。

『劣化群衆』に紛れる事。
 モブ シーン

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