ゴーストオブアイデンティティー
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幸福が、桐の病院に行着くほんの数分間前の事。

水溜まりを歩く音が、廊下に響く。


甲高い足音と、共に。

昼間だというのに、その足音しか聞こえない、異様な静けさ。


独り、歩む者。

赤い紅い、

座敷闇風。


カツリカツリと廊下を歩き回る。

時々「びちゃり」という音が混ざる。

がらりと戸を開けた。

「あらら?」


「ひっ……………!?」

いたのは、看護婦、一人。


ベッドの隅に隠れるようにしてしゃがんでいた。
顔が白い。死人に近い白さで、生にしがみつく状態。

呼吸が滅茶苦茶だった。
浅く、いきなり過呼吸に。


「ま、いいや。ねぇねぇちょこっと聞いていーいおねぇちゃん?」


「あ…が……ぐ…あぁぁあいあ…いいいい嫌ぁ……嫌ぁぁぁあ!!誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か!!?」


爪が剥がれる位に壁を引っ掻くその看護婦を、闇風はうんざりした表情で見た。

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