ゴーストオブアイデンティティー
「………可哀想?」


ヤヨは頷く。

「可哀想。誰も、見てくれない。ファントム・オブ・ジ・オペラとしての闇風を見る人はいても、座敷闇風という、1人の存在としては誰も見てくれない。誰も…誰も………例え、兄の幸福でさえも」



だから。



可哀想だと、ヤヨは言った。



「そう……か」


無音が満ちた。
つまりは空虚。

ヤヨはスコープを覗き、ヤナセはそれをただ見守る。


空虚を破ったのは、

「ヤヨ、私には――――」


言葉でなく、




爆音だった。

ジェットエンジンが耳元を通り過ぎる様な、鼓膜を痺れさせる程の爆音が響き渡った。



「―――――――何!?」


慌てて病院に目をやる。

病院の半棟が、轟壊していた。

< 186 / 503 >

この作品をシェア

pagetop