ゴーストオブアイデンティティー
恐怖しながらも、桐は幸福といくらか会話をしたような気がする。

しかし、内容は思い出せない。思い出す事を、心のどこかで拒否しているのかもしれない。


何を話したのだろうか。


今でも気掛かりだ。思い出そうとするのに丸一日、使う事は少なくない。最近は特に酷くなってきている。


「見事なキチガイっぷりね、私って」


ため息とも苦笑ともとれる、微妙な声が漏れる。

今の桐には後悔の念が渦巻いていた。


会話が何だったのか。
もう、確認のしようがない。



もう、座敷 幸福はいない。


死んだのだ。

あの日――


十二月二十四日に。座敷家を筆頭に、七万人を死に至らしめた、大火災。

その死亡者リストに、幸福の名があった。

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