ゴーストオブアイデンティティー
桐はゆっくりと門戸をくぐった。まず目に飛び込んできたのは、煤と灰を被った日本庭園。


敷き石が玄関らしき所まで続いている。だが桐は、裏口の方へ足を運んだ。


普通なら雑草がはびこっているはずなのだが、やはり、草一本、元々あった植木でさえ、生木は無かった。

みな枯れ、生気の無い灰色に染まっている。



「変…よね、これって」


たかが火災で、こんなにも木が死ぬものだろうか。それに三年も経とうというのに、死木しかない。異常である。


小さな池があるが、勿論生物の気配は無い。ただ満月を映していた。


目眩を起こすような感覚に襲われる。新聞部の新歓で酒を少々媒酌し、酔ってしまった時のような、視界と感覚を鈍らせる歪み。


この雰囲気にのまれてしまっている。


「しっかりしなさい、桐」


自身に叱咤をし、何かを振り切るように、桐はライカを構えた。
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