ゴーストオブアイデンティティー
「…………ただ、話すと吐き気がするだけだ。そんな事より薬はどうなっている?折角病院からしこたま原料取ってきたんだ。それなりにはもつだろ」


『…それなりには、ですが。それより、お姫様が起きた様ですが』

起きずに首を傾け、桐が幸福を見ていた。


「…起きたか」

「……………多分ね。でも私は夢であって欲しいわ。悪夢だもの」


「現実逃避か。気楽だな」

幸福の皮肉にもあまり興味を示さず、桐は上半身だけ起こす。

「ここ、どこ?」

「ただの部屋だ」

「そんなの分かってる。場所は?今何時?」

寝起きのクセに五月蝿い奴だ、と、顔をしかめる幸福の代わりに、



『あなたの町ですよ。町外れの廃工場の地下室です。現在時刻は12月26日午前4時33分です』



先程の女の声が、部屋に響いた。
が、桐にさほど驚いた様子は見られない。

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