ゴーストオブアイデンティティー
「………」

幸福は無表情だった。表情が抜け落ちた、無味乾燥の顔。

割れた瓶を、無表情で見つめている。


うっすらと、手に血が滲んでいる。が、それにも気が付かない様子だった。

「……私何か変な事言った?」

桐が天井に呟く。

『私の記憶にはその形跡はありませんが』

AI――――ムトの言葉を聞き、桐はふらつきながら立ち上がった。


左足には、包帯がちゃんと取り替えて巻かれていた。


幸福が、やったのか。

思えば着ている服も薄汚れた感じがない、綺麗なもの。

感謝と同時に羞恥心が沸き上がる。

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