ゴーストオブアイデンティティー
和樹は、私の考えとは裏腹、怒気を含んでいた。

「…何がだい?」

「だって…あんな子が」


手をもって、言葉を制した。

「言いたい事は、分かる。但し、立場をわきまえよう、和樹」

なんでこんな事に?

和樹はこう続けるつもりだったのだろう。


「私達が科学者の端くれであるのと、彼女をそうしたのが私達であるというのを忘れてはいけないよ、和樹」

「でも…!!」

「心有るモノとして扱えと?ふん、そうかそうか。やはり君は未だアマチャンだね…おっと失礼するよ」

私は白衣の胸ポケットから煙草を取り出した。キャメルの10mm。お気に入りだ。
火を付け、肺に煙を充たす。身体にニコチンが回るのを感じる。実に良い麻薬っぷりだ。

「んん、でもまあ仕方ないさ。君は未だ大学院生だ。こっちの世界に足を浸していない。感覚が違うのさ」

私はもう10年以上、この世界に勤めてきた。
何体も、実験で殺したし、生きたまま解剖もした。

生死の感覚が鈍っているのだ。

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