ゴーストオブアイデンティティー
手を合わせ、目をつむる。


「…ねえ、久しぶりだよね。ごめんね、来れなくって。ちょっと最近忙しくてさ」


独り言を喋りだした…訳ではなさそうだ。石に語りかけているらしい。


「まったくね……もう十年経つんだね、あんたが死んじゃってさ。世界?あー変わったね、私の手でなく、あんたの息子のお陰様で。良い生活、させていただいてるよ。ふふっ。まあ、もう息子もあんたに会ってるだろうけどさ」


一筋。

女の目から涙が。


「あれ?泣いちゃった…あちゃー嫌だね…涙腺、弛くなったのかな…」


しばらく、彼女は泣いた。

その様子を、不思議そうに運命は見ていた。


何故涙を流すのか。
石に向かって語り、涙する彼女は、運命にとって理解し難い事柄であった。


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