ゴーストオブアイデンティティー
悲しいというモノを知らない運命には、わからない。


ひとしきり泣いた彼女は、ハンカチを取り出して目を拭った。


「あぁらら…泣いちゃった、泣いちゃった。こりゃ一年分だね……ふふ」

運命の方に振り返り、ばつの悪い表情をした。


「いやはや…ごめんね、大の大人の見苦しいモノ見せちゃって。いつもはこんなんじゃ、ないんだよ?ま、見逃して?ね?」

「…………なんで、泣く?」

「………?」


「運命はわからない。何故涙を流す?泣く?」


「なんでだろうね…?人間だから、かな?」

「人間?」

「う、ん…そうだと…私は思うな。こいつが生きていれば、もっと良い解答例を出してくれるんだけどな…いかんせん世の中微妙にうまくいかないね」

女は足元に置いてあった桶の水を、柄杓で石にかけ始めた。溜まった泥や枯葉が押し流されていく。ある程度かけたところで、女は運命に柄杓を渡した。


「はい、あなたの番。桶、持ってなかったようだから」

「…………?」


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