ｺﾞｰｽﾄｵﾌﾞｱｲﾃﾞﾝﾃｨﾃｨｰ

どう、すればいいのか。柄杓を持ったまま、運命は固まる。ひとまず、女に促され、真似る。

この行為にどれ程の意味があったのかは、あえて考えなかった。しかし行為を続けるにつれ、何か、大事なモノのように思えてきた。


桶の水が空になり、女は再び運命を撫でた。

「うん…有難う。こいつも喜んでくれてると思うよ。有り難う……」


「これ……何？」

「これって、お墓の事？」


何も知らない運命には、ただの石にしか見えない。それが、どのような訳でこんなにも大事にされているのか、理解に難儀する。


「参ったな。知らないって……そうだね…簡潔に言えば、死んだ人、かな？」


「死んだ、の？」

「そう。死んじゃった…んだ。まあ、ぶっちゃけちゃうけどさ。その死んだ人に対する未練の塊が、こんな形で残るんだよ」


まったくもって下らないさと、女は眉をひそめて苦笑する。そして、一輪の石楠花を石の前に供えた。

「こいつは望んでないのにね。だからこれは懺悔の代わり」