ゴーストオブアイデンティティー
それはもう、家族とは言えないんじゃないだろうか。まるで戦争………

そんな所に絆なんて生まれない。育たない。心は荒んで、消えてしまう。生まれるのは、悲劇だけだ。


だが、

『それはどうでしょうか』



桐の思考をムトが止めた。

「え?」

『座敷儚は古傷と結婚する前、暗忌儚だった頃、「血の涙」と呼ばれる医療団体を設立、各国の内戦や紛争での被災者、怪我人の治療を自ら危険地帯の最前線にて行い、ナイチンゲールの再来とも呼ばれていました。何か神がかった天才という訳でもなく、あくまで一般人、ということにされてはいますが』


「普通?それだけの事をしておきながら?」


『座敷家からの目線で言えば、です。他人でも、誰か1人でも同じ事を出来る人がいる事は、座敷家にしてみれば単なる平凡、つまらない産物に過ぎませんから』


イマイチ理解し難いが、桐は無視した。矛盾を見つけては問うような、粗探しのような事を座敷家に対していちいちやっていてはきりがない。


「続けて」

『異端児、マッドサイエンティストの宝庫の座敷家での儚の存在は、ある意味強烈なものです。熱湯の中に氷を一欠片放り込んだ、とでも例えればいいでしょうか。矛盾の塊に正常を含ませた場合、どうなると思いますか?』

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