ゴーストオブアイデンティティー
湯に氷を入れれば、湯は冷める。同時に氷は融けて無くなる。矛盾に正常を差し込んだ時、互いに疲弊しあい、混沌が生まれる。

「正常」という名の激物。


『異端児の中に放り込まれた儚は当初、発狂しかけたそうですが、幸福、闇風が生まれてからは普通に戻ったということです。最期の抵抗、とでもいったところでしょうか』


「抵抗?」

『彼女なりの、世界の異端児達への反抗です。座敷儚は禁忌を犯しました。幸福に「正常な世界」を教えたのです』


正常な世界とは……何なのだろう。
座敷家がいない世界?それは違う。と、すれば……


「…私の世界?」

『はい。正確に言えば表の、光を浴びる世界です。儚が以前、生きていた世界。暗忌儚であった頃の世界を教えました。結果…幸福は古傷に洗脳される前に「真実」を見、多少歪みはありますが正常な「心」を手に入れました』

「「心」ね……」


桐の覚えている限り、桐に対しては心無い歓迎ばかりだった気がするが…しかしそれはきっと、幸福がただ不器用なだけなのだろう。この桐の足の包帯がそれを物語っている。「心」の片鱗を桐に見せた証拠だ。

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