ゴーストオブアイデンティティー
「心………か…」


きっと贈り物は「心」だ。桐にはなんとなくだが、解る。幸福がすぐに見失いそうなモノを、それを見ることで目に焼き付けさせ、心にしっかりと刻ませる


幸福への心という名の贈り物。座敷儚が己の死を感じ、造ったモノ。
幸福に己を見失わないようにさせる、切り札。

『幸福はその中身の意味を既に解いているでしょう。でもそれを未だ見ていません』

「どうして?」

『それは私が言うべきではないかと。幸福に直接聞いて下さい。過ぎる行動は誰にとっても悪でしかないですから』


「…そうね」

これは幸福の問題だ。他者がとやかく首を突っ込んでいいモノではない。


『私の話は以上で終わりますが。何か他にありますか?』


「もう終わるの?かなり中途半端じゃない?」

『これ以上話が進むと色々と幸福の「禁忌」に触れますから。桐、あなたは墨汁で塗りたくられて読める部分の方が少ない教科書を読みたいと思いますか?』

大戦直後の日本を思い出す。写真でしか見てはいないが、教科書は墨で塗り潰されていた。


「…ないわね。じゃあ、話題を変えましょう。幸福は今、何をしようとしているの?何処にいるの?」


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