ゴーストオブアイデンティティー
『それは私にも解りません。特にあてもなくさ迷い…放浪癖というか…猫みたいなものですね。全く可愛げのない猫ですが』


「…そう」

幸福が猫という例えが妙に合って、桐は少し、頬を弛めた。

「今、何してるのかしらね?」


それは、それこそ幸福…神のみぞ知り得る事柄か。


「私の怪我…あとどれくらいで治るかしら?」

『それは銃創が完璧に消えるまでの事を意味しますか?』

「…行動するのに支障をきたさない位」

「それなら明日の午後には大丈夫です。相当な不可を与えなければ傷口も開く事は無いでしょう」

「そう…じゃあ、それまでゆっくりしてろって事ね。ありがと」

桐は飲み終わった栄養剤の小瓶をまとめて入口に置き、それから幸福が座っていた畳の窪んだ所に体育座りで腰掛けた。


『そこに座ったら何を言われるか知れないですよ?幸福の指定席ですから。有無を言わさずの射殺も十分視野に入ります』

「いいじゃない、あなたが黙っていればバレないわよ」


『……あなたは神経が図太いんですね』

ムトの言葉に桐は笑顔で答えた。


「それ、私にとっては誉め言葉よ?ジャーナリストは神経が図太くないとやっていけないの。それに…」


『それに…何ですか?』

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