ゴーストオブアイデンティティー
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二階建ての一軒家。屋根は無い。屋上に2つ、物干し竿が置かれていた。至って普通の一軒家だ。
深夜2時に、その屋上で煙草を燻らせる者が一人、いた。
煙草はキャメルの10mm。あまり馴染みの無いその銘柄の煙草を吸う者は数少ない。
数少ないキャメルを吸う事実にほんの少し、優越感を持ちながら、彼女――古井出 桜は屋上で一人、煙草を燻らせる。
身も凍る程の寒空の下で吸う煙草は、何故だか一味違う気がした。
一口吸い、桜はため息と共に煙を吐き出した。
「…何故だか非常に疲れた…いや疲れている、な」
口に出すと、ああ本当に私は疲れているんだな、と、改めて分かった。分かったからといって何かが変わる訳でもないけれど。
悩みの種。
それは運命だった。座敷…いや、暗忌運命の処遇をどうするか。
「いや、違うよ私。処遇云々じゃない。何というか…彼女への接し方、かな?」
親友であった暗忌儚の……娘。
彼女は難しい。桜はそう思った。儚の墓前で運命と会い、自宅へと連れ帰った。
そこまではいい。が、問題はそれからだった。
「何か欲しいモノある?」
「………幸福」
「お風呂に入りましょう?貴女の髪の毛洗うの大変そうね」
「お風呂って………何?」
「ご飯出来たわ。食べましょ」
「………ご飯て何?」
此れが会話として成立しているのだろうか。