ゴーストオブアイデンティティー
いや、此れのどこが会話なのだ。

余所見しながらキャッチボールをしているみたいだ。興味が無いというか、呆けているというか………

相手にされていない。



「きっと私が悪い。そうでしょ、儚?私、人付き合い苦手だからさ。何話したらいいか、分からないんだ」

運命の母親でもある親友の名を、桜は呼んだ。

親友。

暗忌儚は、古井出桜にとって初めての親友だった。最初の出会いは…高校。2年生のクラス替えで初めて一緒になったのだ。会話が苦手でいつも一人でいた桜に話し掛けてきた、唯一の人間。


「儚、貴女昔から社交性に溢れてた人間だったね。羨ましい」

理想の人間だった。桜が裏方役だとしたら、彼女はステージのライトをかき集めたスター。

そんな暗忌儚が手を差し伸べてきたのだ。夢ではないかと何度、思ったろう?


「…でも私は、拒絶した」


拒絶。そう拒絶。

単純な理由だ。あの頃の儚と初めて会った桜は、その存在に恐怖したのだ。

圧倒的な存在の彼女。その人と同じ壇上に上がるというのだ。恐怖しない訳がない。

それ以前に、桜は彼女に対して疑いを持った。暗忌儚は完璧だ。それ故に、裏があるんじゃないか、と。


私の友達の「フリ」をして、本当はその私の浮かれ具合を遠目で見て面白がりたいだけなのではないか、と。

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