ゴーストオブアイデンティティー
そんな惨めな思いをするなら、幸せな時間ど、必要ない。まやかし物だとしたら、尚更だ。


だから桜は、暗忌儚を拒絶した。

人は汚れている。
人は穢れている。

心が真っ直ぐなんて言う事柄は、その人物が心の屈折部分の片鱗を見せていないだけで、実際は迷宮の様に繊細で複雑で、枝分かれして折れ曲がっているのだ。

そう思って生きてきた。桜はそう思わなければ生きていけなかったから。
イジメという鬼畜な世界には、そんな風に壁を作って防御しなければ生きていけなかった。


「じゃあ貴女は何も変われないわ。一生そのまま。その壁が何時かは崩れてトゲになって、人を傷付けるようになっても、きっと貴女は知らんぷりするの。それはきっと人じゃない。貴女じゃないわ。だから変わりなさい、古井出桜さん」


この言葉と、出逢うまでは。

暗忌儚の言葉は、桜を髄まで侵食した。


「…まあ、私、古井出桜は儚に屈伏した。そういう事さ」

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