ゴーストオブアイデンティティー
そう人間だったから………

儚が死んでも、世界は何も変わらなかった。


「ニンゲン…?」


「そうよ、人間。暗忌儚という、ただの人間。暗忌儚は、暗忌儚…と言うしか私には出来ない」

「ニンゲンて、何」

「まったく……運命、君は難しい事ばかり私にぶつけるね」


まあ、いいさ。


「人間というモノは……いや、これは私が説くべき事じゃない。運命、君が自分で探すんだ。ああ勘違いしないでくれよ、別に面倒臭い訳じゃない。…そりゃ少しは面倒臭いってのがあるけどね。私の分野じゃない。私は科学者だ。あくまで人間を「者」でなく「物」扱いする立場だからね。即ち、私はどうする事も出来ないんだ。だから…」


桜は運命の小さな手を取り、両手で包み込んだ。死人のように冷たかった。

「私はちょっとばかり、昔話をしようと思う」

桜は運命の手を包み込んだ自分の手を見ながら、やはり私は人付き合いが下手だと、つくづく感じた。
人付き合いが下手だ。酷く下手だ。ただの人見知りだと皆は言うが、子供にさえ話し掛けるのにどの様な反応をするか分からなくて怖かったり、何を言えば良いか困ったり…そんな奴は人見知りとは多分、言えない。

決定的に下手なのだ、私は。

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