ゴーストオブアイデンティティー
………。


ムトが静寂を静かに破った。


『私は私を知らない…という答えでは、駄目ですか?』


「答える事は出来ない…そう受け取っていいの?」

『いいえ。私は私。けれども、私は私じゃない。私は私を知っていても、「本当の私」を知らない……つまり、私から何かを聞いても、其所には何の意味も無い、という事です。私は私を知らないのですから』


「成る程…ね」


納得、した。

ムトは、つまりはこう言いたいのだ。

『所詮は私は本物を似せて作ったコピー品に過ぎない。そのコピー品に、私は誰だかを言わせようとするのか。偽物が語るべき事ではない』と。

「確かに。納得…するしかないのかしら?」


『ある意味では、私もゴーストオブアイデンティティーの欠片なんですよ。完璧に在ろうにも、それは不可能、無理な話しというものです』
< 470 / 503 >

この作品をシェア

pagetop