ゴーストオブアイデンティティー
『構いませんよ。恐らく…二度と着る事は無いでしょうから』


その言葉の意味―――それには触れないでおく。

何も言わず、桐はコートに袖を通した。

案の定、大きい。しかし、思った程でもない。むしろ、小さい。


想像。

極限まで痩せ細った、若しくは意図的にいらない筋肉を全て削り尽くした体。

死に近い体。



死を受け入れた、身体。


………止めよう、想像は。


胸ポケットに、銃をしまう。
ずしりと、重い感覚。

幸福の靴を履く。
子供が大人の靴を履いているみたいで、少し滑稽だった。



「じゃあ行くわ、ムト」

笑顔で、桐は告げた。

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