ゴーストオブアイデンティティー
儚は最期まで幸福と運命を庇い続けていた。


座敷家である以前に、母親である事を選んだ結果として、至極真っ当な行為だった。

私と真逆の信念を貫いた訳だ。




そんな儚を、私は殺した。

私自身の手で、殺した。


せめて自分の手で…等という他愛ない引け目が無いと言ったら、それは嘘になる。

儚を殺した時の私は、複雑だった。虚無感が私を襲った。人間「らしい」生き方を貫いた儚が、私は恨めしかった。恐らくそうに違いない。

…………………。


虚無感。

否。


虚無感では、ない。
そうではない。


その時の私の中に産まれたモノは………解放だった。

何からの解放か。






それは恐怖だ。

恐怖心からの、解放。

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