ゴーストオブアイデンティティー
「ねぇ、兄さん」

闇風は、かざした右手の爪を撫でながら、幸福に問い掛けた。


「私達、どうして産まれてきたのかしら?…いえ、どうして『座敷家』に産まれてきたのかしら?」

「………」

「誰でもない、何で私と幸福兄さんは産まれてきたの?何の変哲も無い、何も知らない人間の中で産まれていたら。兄妹ではなく別々の家に産まれていたら。違う、全く関わり合いの無い世界に産まれていたら―――」

闇風は掌にフッ、と、息を吹き掛ける。



「私達、殺し合いなんてしなかったかしら?」


「惨めだな、闇風」

問いに、幸福は惨めと返した。
惨め。確かに、これ程惨めな話は無いであろう。


――もしも、例えば、仮に――


「仮定」等、有り得るはずの無い、無かった世界を妬んで作られた言葉だ。

選択肢を間違ったと、とある者は言う。

こんなはずじゃなかったと、とある者は言う。

そして最後に、こう述べるのだ。

『あの時、ああしていれば』と 。


なんて惨めな…言葉の羅列だろう。

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