エクスペリメント
　金属同士の衝突が鈍い音を奏で、ＰＫの剣は少女の目の前で叩き折られた。
　なにが起きたのか、それを少女が理解するのには数十秒の時間を要する。
　それほどまでに突然だったのだ。

「な、なんなんだよてめぇ！」

　剣を振り下ろしたＰＫと異眼の少女の間には、いつの間にか一人の青年が立っていた。
　その青年が太陽光を浴びて光る紅色の剣を構えていることから、ＰＫが振り下ろした剣を叩き折ったのはこの青年だということは容易に想像できる。
　黒いシャツの上に剣と同じ紅色のジャケットを羽織った青年は、異眼の少女に振り返ると、手を差し出す。

「大丈夫？　怪我はない？」
「あ、えと……私は大丈夫……です」
「そう、よかった」

　自分達を完全に無視するような青年の態度がカンに触ったのだろう。
　二人のＰＫは腰を抜かしてしまった少女を引っ張り起こす青年に、背後から斬りかかった。
　しかし――

　再び鈍い音と共に空に舞う剣の刀身。
　二人のＰＫの手元に残ったのは刀身が丸々なくなった剣、つまり柄のみ。
　後数センチ深く太刀が入っていたら柄を握る指ごと斬り飛ばされていたかもしれない。
　それは二人のＰＫの恐怖心を煽るには十分すぎる威力があった。
　やがて、ＰＫのうちの一人がハッと何かに気づいたように、恐る恐る口を開く。

「紅の刀に同色のジャケット……お前まさか、『閃光のレオ』じゃあ……」
「だったら……なに？」

　青年の返答に二人のＰＫは竦み上がり、アイテムポーチから転移アイテムを取り出してすぐさまそれを使用した。
　光の粒子が彼等を包み、文字通り光の速さで彼等を別の場所に転移させる。要するに逃げたのだ。
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表紙・目次

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