Strawberry & Chocolate
「けど、記憶喪失の人ってほとんどの場合、自分の記憶を取り戻そうとするものだけどなぁ。中村さんは違うんだね」
「先生には多分、一生わかりませんよ。記憶がない人の苦しみなんて」
「中村くんはわかるっていうのかい?中村さんと一緒に住んでるから?」
「ええ、わかります。
俺だってリナと同じ。記憶がありませんから。子どもの頃の」
そう。
俺にも記憶がない。
6歳頃までの記憶が。
俺もリナと同じように気づいたら公園の時計の前にいた。
一番最初に感じたのは痛みだった。
体中が痛くて痛くてたまらなくて。
そのまま気を失って、次に目を覚ましたら中村園にいた。
俺は全身に擦り傷や打撲があったらしい。
なぜそんな傷だらけだったのか自分自身もわからないけど。
自分の一番最初の記憶が苦痛だったから、俺は自分自身を知ろうとは思わなかった。
思い出してもきっとツラくなるだけだと思ったから。
そして、それはリナも同じで。
リナは身体に傷はついてなかったけど、雨の中、たった一枚の着物を纏って立っていた。
寒さで泣いているのか、何か別の感情で泣いているのかわからなかったけど。
俺の手を取ったリナの手はとても冷たかった。
「…君たちは―」
ドガァン!!
不意に耳に入ってきた何かが倒れたような破壊音。
何だ!?
音が聞こえた方向…道場の方か!!
「あ!!こら、待ちなさい!!」
月島先生の制止の声を無視して、俺は道場へと向かった。